服飾変遷

2013年12月20日

hensen
 図のように2080年ではなく、1990年代には既に見た気もする。少なくとも00年代前半には。もっとワイルドなメイクとヘアを伴って。芸術は長く人生は短し。ファッションの消費サイクルは短し。仮にこの計算が有効ならば、2080年のボトム丈はさらに短し。だが、決して裸へは行き着かない。行く川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず。否、もとの水である場合もあり得る。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと服飾と、またかくの如し。もっと古い書籍ならともかく、1981年の著作なので、これは充分想像の範疇のルックであろうが、あくまでこの理論に照らし合わせると、2080年にこの和装が現れても、鹿鳴館時代に現れるに比べれば、全く狂人扱いされないだろうという仮想実験である。奇天烈さを表現する為に、あえて和服を選んだと思われる想像図ではあるが、この10数年後には軽々と実在することになる。今も街では様々な格好があるようだが、ぎょっとするという意味での驚きはほとんど皆無である。

而今禾/竹松梅

2013年10月13日

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 Jikonka TOKYO(而今禾)での『竹松梅 / ハタナカユーコ展』へ。今年は ”静かな” 作品となりました。と案内状にあったが、その御言葉通り、削ぎ落とすことによって現れたその静けさの中に滲み出る様に宿る美しさと、作品と何とも調和の良い展示室のスケールとに高揚する。削り出した象牙から発露する規則的でありながらイレギュラーで、単純でありながら複雑な生き物の模様がこの上なく魅力的である。寡聞にして存じ上げていなかった名店 Jikonka の米田様ともお話させていただく機会を得、本店が歴史ある三重・関宿にあることならではの伊勢木綿の服や、日本が誇る綿織物の中心地・浜松の小さな機屋さんの素晴らしい素材等を拝見させていただき、それらからものづくりの背景と必然性、責任や使命を感じられ、お店や商品の美しさという存在全体に思想が満たされているという点において、而今禾と竹松梅との共通点を見出す。桜新町の駅は初めて降りたが、駅前の雰囲気にえも言われぬ良さを感じた。それはサザエさんのBGM効果ではなく、来たる東京オリンピックのための新国立競技場設計案が、その巨大さで議論を呼んでいる話と同様、道幅と建物の高さの関係によるのだと感じた。桜新町は桜並木の上の空が広いのである。新国立競技場はこのままのザハ・ハディド案でいくと、銀座の中央通りで制限されている高さ(60m)より4層分も高いものが、道路からの引きが一切無くそそり立つという事であるらしい。門外漢の自分は、専門家の職能と同じようにそれらの良し悪しを微細なレベルの肌感覚で判断できないのは当然ではあるが、気持ちの良いものではなくなる可能性は少なくはないとは想像せられる。巨大さは特に今回のコンペのプログラムに依るところであるとも聞いているし、建築というもの自体が、決定案から何の変更も無く進んでいくわけではないのが常識であるとの事だが、地球上で一体何名の建築家が応募出来るのかという程の厳しい今回の参加資格を持つ、世界有数の一流中の一流の叡智をもってしても、特筆すべき敷地の歴史をはじめとした、景観・普段の生活・安全面・災害時・オリンピック後のこと・維持費等々の、ものづくりの背景と必然性、社会的責任や使命から生み出される美しさという存在全体を思想が完璧に満たせるかどうかは、この上なく至難の業であると知る。七年後、オリンピックを誘致できた現在の東京において最も美しい景色のひとつである外苑前の銀杏並木の上の空、絵画館と立ち並ぶ景観はどうなるか。同じ事を服づくりでも果たせる様でなくてはいけない。

あの青い上っ張り

2013年8月14日

bil cunningham

 「ファッションに否定的な声もある。 ” 混乱を極め問題を抱えた社会で、ファッションがなんの役に立つ? 事態は深刻だ” と。だが要するに ファッションは鎧なんだ、日々を生き抜くための。手放せば文明を捨てたも同然だ。僕はそう思う」

 82歳(現在84歳)。青い上っ張り(パリのBHVオリジナルの作業着)。29台目の自転車。半世紀ニューヨークのストリートスナップを撮っているビル・カニンガムのドキュメンタリー『ビル・カニンガム&ニューヨーク』。カーネギーホール上の、トイレやシャワー共同の、ネガを管理するキャビネットで埋め尽くされた小さな部屋をついに追い出され、キッチン・バス・トイレ付きの(「そんなの要らないよ、街へ出て写真が撮れればいい」)セントラルパークサウスのアパートへ引っ越すまでの。
 ビルは、「コレクション」「ストリートファッション」「(慈善)パーティー」の3つに顔を出して写真を撮る。コレクションはラグジュアリーブランド等のランウェイでモデルが纏っているモード、ストリートは街の女性が自腹で装っているファッション(「無料で着飾った有名人に興味はありません」「撮るかどうかはファッション次第」)、パーティーは画面にロックフェラーが見切れるようないわゆるセレブな世界、これらどこに居るときでも、どんな人と接するときでもビルは一切変わらない。パーティーでは水の一杯にも手を出さない。シャッターを切るときも、見知らぬ人と話しているときも常に口角が上がっている。「金をもらわなければ口出しされない。すべてに通ずる鍵だ。金に触れるな、触れたら最後だ」このような生き方をみて周りの人々は、ビルは裕福な生まれなのでは?と推測するが(長年知己であっても、特に私生活は謎に包まれている)、そうではなく労働者階級だとの返答。これを50年。ビル・カニンガムだけに見えている事は、ファッションや美に関してだけではないだろう。ビル・カニンガムただ一人だけが、この50年間のニューヨークのストリートの歴史の証人であり、今後いかなる国や街で、いかに似た時代が存在したとしても、何人も同じ創造はできない。何よりも魅力を感じ興味を引くのは、自由であることや信念を守りきり、ニューヨークではほぼ不可能な「誠実に働く」事を実践し続けている「強さ」と、常に溢れる笑顔であるが、それらは生来のものであると同時に、若い頃、帽子デザイナーであった時の、富裕な出資者との出征を巡るトラブルなどを乗り越えて来た歴史に依るところも少なくはないだろう。食には興味が無く、コーヒーは安ければ安い程良い、どうせすぐ破れる雨合羽はガムテープだらけ、トレードマークの青い上っ張りはパリの清掃人作業着20ドル、「質素で飾らないものがいい、気取ったものは苦手だ。ドレスアップした女性は大好き。考えたら矛盾しているな。」と、パリのカフェで話すのを聞くにつけても、不思議に矛盾を感じないというか、人は矛盾に生きるものだと感じさせてくれる。が、それも嘘偽り無い生きざまの上での矛盾だからだろう。パリコレクション撮影で訪れるパリは、半年おきに学校に通っているような勉強の場だというが、そのフランスでシュヴァリエを飛び越えて表彰された、勲章オフィシエがあの青い上っ張りの左胸に輝くシーンは感動的である。その自身の為のお祝いの席でさえ、ゲストを撮影する彼は「美を追い求める者は、必ずや美を見出す」という言葉で受賞の挨拶を締めくくるが、鑑賞者の私からすると「だだし、人生をかけて」という注釈を付けたくなるような生き方だと感じた。このように、何ものにも揺るがない無敵で強靭な精神を持つように見えるビル・カニンガムに、「答えなくてもよい」という前提で向けられた「信仰」と「恋愛」についての質問には、この映画の中で見る事の無かった「間」と「笑顔でない瞬間」が訪れたが、それでもやはり誠実な答えが返ってくるのだった。決して嬉しくはない、広く、見晴らしよく、バス・トイレ付きの彼の新しい部屋の立派なキッチンは、ネガを保存するためのキャビネット置き場へと改装された。「こんなことに人生の邪魔はさせない」

A/W petal

2013年7月7日

hanabou

 petalの展示会へお邪魔。ラビットファーのハットは、フロントの独特なツマミを纏うクラウンは高めで秋冬らしい深い色味、オリジナルのチップでアシンメトリーに上げ下げしたブリムに、洒落たグログランの結び。シンプル且つ力強いフォルムのベレー。落ち着きがありながらインパクトのある色使いのトーク。今時のコーディネートに使い勝手のよさそうなファー等のマテリアルキャップ。厚手コーデュロイのキャスケット。ハンドステッチを用いた柔らかなチロリアンシリーズ。どれも、肌寒い街で女性がかぶっていたら、つい振り向いてしまいそうな素晴らしい帽子。

 

petal1

 petal(カワチハナコ)の2013夏物。 @TAKIZAWA NARUMI BOUTIQUE
バラバンタル帽体のシンプルなキャプリーヌも、かぶると凄く印象深くインパクトがあり、逆にディスプレイの上では見た目に派手なベレー帽は、少し斜めにかぶり”クシュッ”と手加減すると、とても可愛く且つシックになる。「”帽子ってあんまり”であるとか”私、帽子似合わないんだよね〜”と思っている淑女も是非!」とデザイナーが言っている様に、多くの女性に似合うと感じる帽子の数々。帽体にハンドペイント柄や、ウォッシャブルな型紙による大振りの帽子も、夏の日差しにこそ出かけたくなる作品。特にボブ周辺の長さの御方には素敵かと、個人的見解。

house clothes
Glass buttons

 Assorted five species of winter dressing gown by hPark.Wool Shorts,wool one-piece pajamas,white cotton shirt dress,nylon cotton pajamas made of slub yarn for men and cotton sleeveless top that contains physical seam line.
 Wool one-piece pajamas for women with German glass buttons.

マニピュレーション

2013年1月10日

t jacket

 兄弟のジャケット。彼の仕事の上で、期待の若手として爽やかさと活力に溢れた仕上がりにしたい。製図段階で、採寸の難しさを痛感。例えば、同じバスト寸でも、ブレード寸法がおかしいと、結構大変なことになる。オーダーメイドとしていえば、採寸しながらも頭に製図を浮かべ、この数字はちょっとおかしいかも!と、すぐ気付く位でなくては、それだけの事はある服づくりは出来ない。Manipulationは、型紙を切ったりして、効果的な立体をつくり出す操作であるが、これだけでも1冊の本になるほど奥深く、一日中だって考えてられる楽しい処理の一つである。
 

 

虫食い(容疑)

2013年1月4日

mushikui

 四季を通して、衣服を長期に渡って保管するには、不利な条件が出揃っている日本。仮に保管環境を完璧にコントロールしたとしても、今度は目に見えない微視的な汚れからハッキリクッキリの食べこぼしまで、虫食いやカビ発生の原因は枚挙に暇がない。動物繊維は虫害を受けやすい。日本で一番多いのは、年間三世代(条件によっては六世代)発生するイガと、年間一世代発生するヒメマルカツオブシムシだということで、前者の産卵期は5・7・9月頃、後者は4〜6月である。ともに成虫は5mmほどだというのだが、私は見た事がない(と思う)。寡聞にして疎いので、勉強したいと考えているところだが、虫害を受けない為にはやはり防虫剤の使用という事になるのであろうか。よく見かける某有名防虫剤を見てみると、成分はエンペントリン、フェノキシエタノール、スルファミド系などと書いてある。一方、書物などには、ナフタリン、樟脳、パラジクロールベンゾールなどとあるが、何が何だかさっぱり分からない。今ならば化学の授業も興味深く聞けたかもしれない。ともかく注意する事は、防虫剤を2種類以上併用しない方がいいという事。ガスが溶融して水分を出し、シミとなったりするらしい。また、ガス化した防虫剤は空気より軽いので、箪笥やケースの中でも、底ではなく服の上に置くのが良い。半年くらいで、必要であれば交換すべきであるが、上記のような理由から、同じ種類のものが良いという事になる。そして、防虫剤の種類によっては、プラスティックを溶かすものもあるので、衣装ケースのみならず、服のボタンやバックルなどでも気を付ける必要がある(この点では、殺虫効果は小さいながらも、樟脳は無敵)。最後は酸素。酸化により服は劣化する。であるので、真空パックや脱酸素剤などを通気性の無い容器で使用する。清潔さ・乾燥・整形(アイロンや収納方法)・防虫・低温が大切なポイントとなる。